問いの集約
三味線を分解する──構造・素材・設計思想について
三味線は、単なる構造物ではありません。分解を通じて見えてくるのは、部品と素材の集合体ではなく、時間と思想が折り重なって形成された「道」のような存在です。講義では、実際に三味線を分解・組み立てながら、最小限の部品構成、天然素材による接着、壊れ方まで計算された構造といった設計思想を検証しました。持ち運びやメンテナンス性を超えて、「楽器が育つ」「奏者と共に成熟していく」という感覚がどのように設計の中に織り込まれているのかを手がかりに、三味線という楽器の本質に静かに迫っていきました。
共有した問い
- ・なぜ三味線は、ここまで分解しやすい構造として設計されているのか。
- ・最小限の部品点数に収束していった「引き算の設計」の必然性とは何か。
- ・天然素材と伝統的な接着方法は、音色と楽器寿命にどのような影響を与えるのか。
- ・「壊れ方まで計算された楽器」とは、どのような思想にもとづいているのか。
- ・良い楽器が「育つ」「成熟する」とは、具体的にどのような現象を指すのか。
- ・大量生産の消費財的な楽器との違いは、どこに線を引くべきなのか。
- ・論理だけでは設計できない「何か」は、どこからやってきているのか。
内容の記録
Ⅰ.三味線の分解構造
・三味線の分解方法を3つに分類:①容易に外せる部位(棹・胴・糸巻き・弦・音緒など)
・②水に浸すことで分解できる部位(皮、胴、棹と乳袋(天神)など)
・③強固に接合された部位(福林などの金属部品)は、分解が容易ではないこと
・実際に分解し、各接着部・素材の役割と限界を確認
Ⅱ.「分解しやすさ」が意味するもの
・棹を三つに分解できる構造による高い携帯性
・分解可能性がもたらすメンテナンス性の高さと修理のしやすさ
・単なる利便性にとどまらず、「楽器が成熟/変化する余地」を残す設計であること
Ⅲ.三味線の設計思想──最小限の部品と天然素材
・演奏に必要な部品点数はおよそ30点とされること
・他の多くの楽器よりも一桁、二桁少ない「極端にシンプルな構成」であること
・部品削減の先に現れる、日本的な「引き算の美」と機能美
・餅米などによる接着に代表される、天然素材同士の組み合わせと音色の関係
Ⅳ.壊れ方まで計算された構造と「育つ楽器」
・分解しやすさ=壊れやすさではなく、「再生を前提とした壊れ方」の設計であること
・適切なメンテナンスにより、数十年〜百年単位で使用されてきた実例
・機械のように硬すぎる人工素材の三味線は「育たない」
・奏者の成長に応じて楽器も成熟し、双方の対話が深まっていくプロセス
Ⅴ.論理では設計しきれない「何か」
・三味線は、西洋的な論理設計だけでは到達できない領域を含んでいるという実感
・東洋的な知性や身体知、言葉にならない判断が、形や構造の背景にあること
・「道具」でありながら、人を導き、学びを促す存在としての三味線
・その「何か」を、言葉だけでなく音や実演を通じて伝えようとする試みとしての本稽古
※ここで扱う内容は、三味線に限らず、日本の伝統的な道具や楽器全般に通じる「設計思想」への手がかりでもあります。 量産・消費を前提としたものづくりとは異なる、長い時間軸と持続可能性を前提とした視点から、楽器との付き合い方を見直していきます。
初公開:2022-09-23 / 最終更新:2026-01-07