問いの集約
よくある悩み「音が痛い、うるさい」──聴力を落とす三味線の音色(演奏者のための三味線の基礎知識 5)
「音が痛い」「うるさい」「耳が詰まる感じがする」「耳鳴りがする」。 さらに、練習を続けるほどイライラする、興奮して眠れなくなる── こうした相談は、現場では決して珍しくありません。 本回は、単なる好みや主観の問題として片付けられがちなこの悩みを、 音色の構造・使用環境・学びの前提から整理し、 演奏者が自分の聴覚を守りながら「本来の音色」に戻るための判断軸を提示します。
この回で共有した問い
- ・「音が痛い」「うるさい」と感じる音色は、何が起きているのか。
- ・なぜ本人は「うるさい」と思われていることに気づきにくいのか。
- ・音色のスポーツ化・エンタメ化は、何を得て何を失ったのか。
- ・うるさい音に対して身体はどんな反応を起こすのか(拒否反応はなぜ瞬時に起きるのか)。
- ・聴力の低下は、どの周波数から始まり、なぜ悪循環になりやすいのか。
- ・「音圧(dB)」は何を示し、聴覚への負担とどう関係するのか。
- ・三味線の音色の個性とは何か(倍音構成・揺らぎ・偶然性)
- ・自分の聴覚を守るために、現実的に何を変えればよいのか(試奏・環境・前提)。
内容概要
本動画は、よくある悩み「音が痛い・うるさい」を手がかりに、聴力に悪影響を及ぼしうる三味線の音色を解説する。 以前は皮を極端に強く張った硬質な三味線に見られやすかったが、近年は一部の人工素材(三味線の合成皮など)でも同様の傾向が確認される。 問題は「本人が気づかないうちに」聴力へ影響しうる点であり、周囲も指摘しづらいため放置されやすい。 背景として、音楽のスポーツ化・エンタメ化(大音量/はっきり/正確/速さが評価される)が挙げられ、音色が金属的・機械的になりやすい構造を示す。 うるさい音に対して身体は瞬間的に防御反応(息が止まる、耳や身体を守る姿勢、受け入れないモード)を起こし、長く聴くと疲労や違和感が強まる。 また、聴力が低下すると聞こえにくさを補うためさらに大きい音を求め、結果として耳の機能が落ち続ける悪循環が起こりやすいことを説明する。 後半では音の三要素の一つ「音圧(dB)」を取り上げ、三味線の測定結果として最大100dBを超える例があること、条件次第で聴覚に負担がかかり得ることを紹介する。 現場の相談事例(自分の楽器がうるさい・不快、練習が続かない等)を整理し、試奏比較を通して「日本古来の繊細で優しい響き」との差は明白であることを示す。 結論として、音色の個性とは、数値化しやすい情報だけで作るのではなく、非整数倍音や雑味、揺らぎ、偶然性を含む「生きている」構成に宿る、と述べる。
まとめ
「音が痛い」「うるさい」という感覚は、好みの問題というより、身体が発する防衛のサインである。 しかし人は、評価基準や慣習(大きい音が勝ち、はっきりした音が良い)に適応するうちに、そのサインを見えなくしてしまう。 音色のスポーツ化・エンタメ化は、分かりやすさと再現性を得る代わりに、余韻・陰影・揺らぎといった生命的な情報を削りやすい。 三味線の個性は、制御しきれない複雑さの中にあり、それは耳だけでなく心身に届く。 だからこそ、試奏し、身体の反応を手がかりにし、聴覚を守る前提へ戻ることが、深みのある音色へ至る現実的な道筋となる。
内容の記録
0.導入:「音が痛い・うるさい」は聴力に影響しうる
・相談例:耳鳴り、耳が詰まった感じ、イライラ、興奮して眠れない、など
・以前は「皮を極端に強く張った硬質な三味線」に多かったが、近年は一部の人工素材系にも見られる
・最大の問題:本人が気づかないうちに聴力へ影響を及ぼす可能性
1.音色のスポーツ化・エンタメ化:メリットとデメリット
・大音量/はっきり/正確/速さが評価される世界では、音が「勝ち」になりやすい
・一見「上手くなった錯覚」が起きやすい(音が簡単に出る、目立つ)
・デメリット:金属的・機械的/体に刺さる/疲れる/長く聴けない、という反応が出やすい
2.うるさい音に対する身体反応:拒否は一瞬で起きる
・身体を守る/耳を守る姿勢、息が止まる、受け入れないモードに入る
・聴き手は「考えて判断」ではなく、身体反応として瞬時に起きる
・周囲が指摘しないため、奏者は自分がうるさいと思われていることに気づきにくい
3.聴力低下の悪循環:聞こえにくいほど大きい音を求める
・聴力は高音域から落ちやすい
・聞こえにくいと、より大きな音を出そうとしてさらに耳に負担がかかる
・我慢が続くと、うるさい音が当たり前になり、違和感が言いにくくなる
4.音の三要素の一つ「音圧」:dBと聴覚負担
・音圧(dB)は音の大きさの指標で、一定以上の音を聞き続けると聴力へ悪影響があり得る
・三味線の測定でも最大100dBを超える例が確認される(条件次第で耳に負担)
・「うるさい」という感想と測定傾向が一致することがある
5.当方の相談事例:「自分の楽器がうるさい・不快」
・相談は主に二系統:昭和後期〜平成の改造的な音色を使っているケース/人工素材系を使っているケース
・違和感が続くと、楽器から遠ざかり、練習しなくなる(挫折につながる場合もある)
・提案:一度さまざまな三味線を試奏し、身体反応を手がかりに音色を見直す
6.試奏すると明白:音楽の世界の慣習が誤解を固定する
・「言われたものを使う」「選ばせない」構造があると、外れくじの回収が難しくなる
・音色の差は試奏で分かるが、試奏の機会が与えられないと固定化する
7.三味線の音色の個性とは:生きている響き(倍音構成・揺らぎ)
・三味線は音の情報量が多く、雑味を含むため評価が難しい
・個性をなくすのは簡単:倍音構成を単純化し、数値化しやすい情報で固めればよい
・個性は、非整数倍音・雑味・揺らぎ・偶然性を含む構成に宿り、「生きている」と感じられる
初公開:2025-09-13 / 最終更新:2026-01-27