問いの集約
9割は叫んでいるだけ──ボイストレーニングと和の発声法の違い
令和の現代、伝統芸能を学ぶ人の発声は、ざっくり三つに分けられます。
「中途半端な西洋発声」「叫ぶような日本風の発声」「日本古来の和の発声」。
問題は、②を「日本の伝統的発声」だと勘違いしてしまう人が少なくないことです。
叫ぶ発声は、一瞬は大きく出て“やった気”になりますが、身体を固め重心を上げ、喉や声帯を閉める構造を含みます。
結果として、喉や身体を痛めたり、眠れない・頭痛など自律神経系の症状が出たり、二曲目以降に失速しやすい。
「上手い」「元気」と言われても「感動した」とは言われにくい──そういう現象も起きがちです。
本回は、叫ぶ発声がどういう構造で、なぜ広まり、和の発声が何を前提にしているのかを、整理します。
すぐに理解できなくても構いません。必要な時に戻ってこられるように、記録として残します。
この回で共有した問い
- ・「叫ぶような日本風の発声」と「和の発声」の差は、どこで決まるのか。
- ・叫ぶと身体はどうなるのか(重心・緊張・喉・響き)。
- ・なぜ一曲目は反応が良く、二曲目以降は失速しやすいのか。
- ・喉や身体の不調、自律神経症状はどこから来るのか。
- ・叫ぶ発声はなぜ近代以降に広まりやすかったのか(環境の変化)。
- ・「叫ぶ=我が出ている」とは、発声の何を指しているのか。
- ・感情は「声を出す」ことで表現されるのか、「声を通じて」生じるのか。
- ・和の発声で言う「自分を通過させる」とは何か。なぜ口伝が必要なのか。
内容概要
本回は、現代に多い「叫ぶような日本風の発声」と、日本古来の「和の発声」を比較し、違いを構造として整理する。 まず、叫ぶ発声は体を固めて重心を上げ、喉や声帯を閉め、声を平たくし、一部に強く響かせる傾向がある。 その結果、喉を痛める/身体を痛める(腰痛・背中の痛みなど)/眠れない・頭痛など自律神経症状/違和感・苦しさ、 さらに「一曲目は反応が良いが二曲目以降はダメ」「元気・上手いとは言われるが感動は言われにくい」といった現象が起きやすい。 次に、この叫ぶ発声が広まった背景として、鎖国後の欧化政策・教育の変化による断絶、マスメディアとオーディオ機器、 西洋音楽に適したホール環境、そして音楽のスポーツ化(競争と序列)を挙げる。 最後に、和の発声は「大きい声を出す技術」ではなく、呼吸を深め、重心を肚・丹田に下げ、日本古来の身体技術で心身を整えることから始まると示す。 感情は頭で作って出すのではなく、身体から湧き上がるものが声を通じて表現される。 さらに「私」が主体ではなく情景や対象が主体となり、私はそれを繋ぐ媒介者として“通過”させる。 これらはテクニックで再現するより、口伝と稽古の反復の中で身体化される領域だ、という位置づけに戻る。
まとめ
叫ぶ発声は、「私」が前に出て、結果を取りにいく身体です。 注目や評価を得やすい反面、身体を固め、興奮を常態化させ、長期では喉・身体・神経を削ることがあります。 和の発声は、逆に「私」を引かせ、声が通る条件を整える稽古です。 感情は作るのではなく、身体を通って声に現れる。 歌は、私が作るのではなく、情景が私を通過して立ち上がる。 上級とは、テクニックを増やすことではなく、主体が少しずつ「私」からずれていくことでもあります。 そのずれが起きた瞬間、声は説明を超えて届き始めます。
内容の記録
0.導入:「中途半端な西洋発声」「叫ぶような日本風の発声」「和の発声」
・伝統芸能を学ぶ人の発声は、現代では大きく三分類できる
・本回は「叫ぶような日本風の発声」と「和の発声」の違いを扱う
1.「叫ぶ」とどうなるのか
・叫ぶ発声は、体を固めて重心を上げ、喉や声帯を閉める
・声が平たくなり、一部にだけ響かせる方向へ寄りやすい
・喉を痛める/身体を痛める(腰・背中など)/眠れない・頭痛などが出ることがある
・一曲目は反応が良いが、二曲目以降に失速しやすい
・「上手い」「元気」は言われても「感動」は言われにくい
2.「叫ぶ」ようになった理由(混ざり方)
・欧化政策や教育政策の変更で、伝統的な身体技術が薄れていった
・マスメディア、オーディオ機器、西洋音楽向けホール環境への適応が混ざった
・競争化(スポーツ化)に適した発声として強化され、現代に至った
3.特徴:叫ぶ発声の身体構造
・身体を固め重心を上げる/裏声のように声帯を伸ばす/喉や声帯を閉める
・頭部に響かせ、目や口を大きく開けて前に飛ばす/硬質で甲高い声を推奨しやすい
・結果として「みんな一緒」になりやすい
4.「叫ぶ」=我が出ている発声
・叫ぶ(キャー)は他人の関心を得る方法として強い
・交感神経が優位になり、心身が緊張して興奮状態になる
・一瞬は大きく出て“やった気”になるが、長期では声が出なくなることもある
5.ボイトレと和の発声の違い(テクニック観)
・テクニックとは、頭の都合(承認欲求・勝ちたい等)で体を改造する方向になりやすい
・手段そのものに点数を付け、序列化が起きると「我」が前に出る
・伝統芸能では「小手先」「形骸化」として戒められてきた
6.和の発声①:感情は声を通じて表現される
・叫ぶ型は重心が高く「頭が私」になりやすい
・頭で考えた「感情風」を実現しようとすると、誇張や無理な高音に寄る
・感情は“声を出す”のでなく、声を通じて生じ、表現される
7.和の発声②:声と情動を繋げる基礎
・呼吸を深くする/重心を肚や丹田に下げる/日本古来の身体技術を身につける
・上半身を緩め、振動や情動に触れられる身体を作っていく
8.和の発声③:自分を通過させる(主体の移動)
・「私」が主体ではなく「対象」が主体となる。私は媒介者になる
・情景が私を通じて立ち上がり、それが声に繋がると唄になる
・個性とは、対象の運び方/対象と身体の繋がり方の必然として現れる
9.学び方:口伝と稽古
・抽象的なことを身体化するため、口伝(目の前で学ぶ)が用いられてきた
・正しい知識→心身を整える→意識の拡大→技術がついてくる、を反復するのが稽古
10.結び:違いを知ることは、戻る道を残すこと
・違和感や不調がある人は、発声の構造そのものを疑ってよい
・和の発声は、声を“作る”より、声が通る条件を整える稽古である
※本内容には、演奏・指導・自身の身体変化を含む長期観測(約20年)が含まれます。
動画初公開:2024-12-30 / 最終更新:2026-02-12