問いの集約
演奏の聴き分け方〜前編〜|無闇な練習より「聞く能力」を先に鍛える
漠然と聴いていると上達は難しい──熟練者は「演奏の聴き分け方」を知っています。 しかし人は、目の前の演奏そのものを聴くのではなく、無意識に「自分が聴きたいように」聴いてしまう。 その結果、練習や訓練を重ねても、判断軸が育たず、上達が頭打ちになりやすい。 本編では、素人が陥りやすい聴取の3パターン(有名・正確さ/効能志向/投影)と、音楽におけるハロー効果を整理した上で、 聴き分けを“嗜み”として捉え直し、「頭で聴かない=身体で聴く」という入口を提示します。 さらに、熟達者が行う“同期(身を重ねる)”の聴き方、感覚の肌理を細かくする方法、 そして最難関の技術「何が表現されていないか」を感知する視点までを前編としてまとめます。
講座紹介(概要)
本動画は、上達の鍵を「練習量」ではなく「聴く能力」に置き、演奏鑑賞(干渉)の前提を再定義する解説です。 多くの人は、演奏を聴くとき無意識に「知っている/有名/正確」「気分が良い/効く」「好き嫌い・投影」という 既定の回路で判断してしまいます。そこにハロー効果(著名性が評価を押し上げる認知バイアス)が重なると、 “演奏そのもの”が見えなくなります。 そこで本編は、聴き分けを技術ではなく「嗜み」として位置づけ、まずは頭の評価軸を外して身体反応で直接受け取る、 という入口を示します。熟達者の聴き方は、演奏者の行為に自分を同期させ、0からなぞるように「身を重ねる」こと。 同期できない部分こそが未知であり、そこから対話が始まる。さらに感覚の肌理を細かくするには、 自分より感覚が鋭い人・作品に触れて知覚の解像度を取り戻すことが有効だと語られます。 講師にとって最も難しい聴き取りは「何が表現されていないか」を感知することであり、後編では“頭で演奏する”問題と 深い意味での自己表現へ接続していく予告で締めくくられます。
この講義で立ち上がった問い
- ・なぜ無闇な練習より先に「聴く能力」を身につけた方が上達が速いのか
- ・人はなぜ「演奏そのもの」ではなく「聴きたいように」聴いてしまうのか
- ・素人の聴き方(有名・正確/効能/投影)は、上達にどんな制約を生むのか
- ・音楽におけるハロー効果を、どうやって切断できるのか
- ・「頭で聴かない=身体で聴く」とは、具体的に何が起きているのか
- ・熟達者の聴き方「同期(身を重ねる)」は、何を可能にするのか
- ・感覚の肌理を細かくするとは何で、どうすれば戻せるのか
- ・最難関の技術「何が表現されていないか」を聴く力は、どう育つのか
- ・本物に触れると自分が変わる、とは何が変化しているのか
内容の記録
Ⅰ.漠然と聴いていると上達は難しい
・熟練者は演奏の聴き分け方を知っている/曖昧な鑑賞のままでは判断軸が育たない
Ⅱ.人は「目の前の演奏」ではなく「聴きたいように」聴く
・無意識のフィルターで意味づけし、演奏そのものの情報が抜け落ちる
Ⅲ.素人の音楽の聴き方:3パターン
・(1) 有名かどうか/正確かどうか(合っている・間違っていないの確認)
・(2) 効能を求める(発散・リラックス・気分の良さとして音楽を消費)
・(3) 投影(好き嫌い・自己像を重ねて聴く)
Ⅳ.音楽におけるハロー効果(認知バイアス)
・「有名だから素晴らしい」を無意識に採用し、演奏そのものの評価が歪む
・フィルターを切って“その人そのもの”を見られるかが分岐点になる
Ⅴ.演奏の聴き分け方は「嗜み」:頭で聴かない/身体で聴く
・頭で聴く=記号化し、正誤や既知性で判断しがち
・身体で聴く=直接受け取り、身体反応(鳥肌・浸透感など)として立ち上がる
Ⅵ.熟達している人の聴き方:同期(身を重ねる)
・演奏を“ぼーっと”聴かず、相手の行為を0からなぞるように同期しに行く
・同期できない部分=自分にとって未知/そこから作者(演奏者)との対話が始まる
・本物は同期できない(何をしているのかすら分からない)という手触りが残る
Ⅶ.感覚の肌理を細かくする
・感覚は社会生活の都合で塞がれやすいが、元来もっと細かく聴ける
・方法:自分より感覚が鋭い人・作品に触れることで、知覚の解像度が戻っていく
・「脳の意味解釈」ではなく「質感」として捉える語彙を持つことも助けになる
Ⅷ.最難関の技術:「何が表現されていないか」を感知する
・講師にとって重要なのは、表現されているものより“省かれたもの”を見ること
・そこへ無理なく気づける助言ができると、学習の関係性が深くなる
Ⅸ.本物に触れた時の反応
・本物は「感動した」以上に、自分が変わってしまう(前に戻れない)ほどの影響を持つ
Ⅹ.予告:頭で演奏する人/深い意味での自己表現
・“操作して感動させる”方向(承認欲求)と、“生じたものが出る”方向の対比へ接続される
※補足:本ページは「聴き分け方」の前編です。ここで扱う「聴く」は、好みや正誤判定ではなく、 身体反応・同期(身を重ねる)・感覚の解像度といった“知覚の技術”として整理しています。
初公開:2024-03-15 / 最終更新:2026-02-26