「出会ってしまったので、後戻りできない」
この三味線を選んだ方の確信に満ちた言葉です。
いつも、この世界から少し隠れている。
それはご自身もなんとなく感じていたこと。
長いおつきあいの方です。
小物を買いに来てくれたついでに、珍しく三味線を試奏したいと。
目に止まったのは、その週に製作の目処が着いたばかりの、仕上げが終わっていないある三味線。
じっくりと丁寧に構え、背筋を伸ばし、深呼吸をして、一の糸の解放の音。
三味線と心と身体が共鳴する瞬間。
不意におとづれた出会い。
「あんな優しい音色を奏でる男性を初めてみた」。
ある演奏会で彼の演奏を聞き、聴衆の一人が涙を流したそうです。
世界から隠れていた彼が少し開いたのだと思います。
「単なる上手」の卒業、それは「心に響く演奏」。
彼はこれをきっかけに、自分の道を歩み出すでしょう。
「この三味線の音色」