三味線材料と持続可能性
私は"最善の選択肢"を考え続けています。
「400年の伝統」「音色が良いこと」「耐久性があること」・・・
これらの伝統と性能を大切にすることは、楽器提供者としては当たり前のことだと思います。
私どもはそれと同じくらい創業期から大切にし続けていることがあります。
それは「持続可能であること」です。
私は"最善の選択肢"を考え続けています。
「400年の伝統」「音色が良いこと」「耐久性があること」・・・
これらの伝統と性能を大切にすることは、楽器提供者としては当たり前のことだと思います。
私どもはそれと同じくらい創業期から大切にし続けていることがあります。
それは「持続可能であること」です。
日本の高度経済成長期は「経済」が優先でした。
その時代は「持続可能性」や「環境負荷」は後回し。
当時の人々にとっては、当時の事情があっての行動です。
それにより三味線の普及が推進できた反面、大量の物を供給することを優先した結果、三味線や道具の一部素材が枯渇してきたと言われています。
それから何十年も経過した今、三味線や道具に利用されている天然素材は、国際条約・法律などでルール化され、環境負荷を考慮した仕組みの中で運営されています。
当方が知る限りでは、業界の多くの業者や奏者が国際ルールや法律を遵守して運営していると認識しています。
これに加え三味線人口も大幅に減少したことから、三味線や道具の材料の需要が大幅に減少し、
結果的に「持続可能性」「環境負荷」は改善されてきています。
その反面、和楽器業者の多くが廃業しているか、経営・継承の困難に直面しています。
これが業界の総論です。
三味線ブーム期後半の取り組みの一部が、三味線と道具の人工素材化(大量生産)です。
人工素材としては主に工場での大量生産が可能なプラスティックや合成繊維が利用されました。
例えば、
・プラスティック製三味線
・天然素材風のプラスティック製 撥と駒
・合皮・合成皮、人工皮
・三味線形状の変更やエレキ化・・・
時代の技術を利用して、選択肢を増やす。それ自体は大切な試みですし、今後の継続も必要でしょうし大切な選択肢です。
しかし、三味線の人工素材化を開始して40〜50年が経過しますが、一部特殊な用途や初心者・教材向けを除き、結局、普及には至りませんでした。
普及しなかった最大の理由は「伝統」と「性能」だと捉えています。
補足1:人工素材も有効に利用できる点がありますので、適時利用を推奨しています。
補足2:プラスティックや合成繊維といった人工素材は原油から製造されます。
今後、持続可能性の脱原油という観点から再度変更を求められる可能性があります。
ここで、もう一つ大切なキーワード「形骸化」があります。
形骸化(けいがいか):誕生・成立したときの意義が失われて、中身のない形だけのものになってしまうこと(Weblio辞書引用)
ここは奏者も同じで、誠実に伝統を伝承しようとしている人ほど、この点を悩み、安易な妥協ができない。
もともと伝統芸能は経済を回すことが本来の目的ではない。
中身のない形だけを伝承することが伝統芸能ではない。
似て非なるモノ。
"それっぽい" と "本物" には簡単には埋められない大きな"何か"があります。
それは "400年受け継がれてきた必然性" とも表現できます。
もちろん、伝統を伝承するために何をしてもいいというわけではありません。
しかし、400年の歴史の中で、奏者に何が選ばれてきたかという現実をしっかり捉えると、
形骸化を最小限にして「伝統と性能」と「持続可能性」が両立する最善の選択をすることが求められていると感じました。
こちらの三味線は90年前の三味線です。素晴らしい音色を響かせます。
その三味線に装着されている駒は約70年前の天然素材の駒です。
良質な天然素材のバチは、大切に利用すれば少なくとも30〜50年は使用することができます。
良い三味線と道具はしっかり修繕すれば長く利用できることがわかっています。
そして、世界の弦楽器の常識、
弦楽器は製作から50年を超えるモノの音色が良い。
ここに現時点の「伝統と性能」と「持続可能性」が両立する選択肢が見出されています。
現在、昭和の三味線ブームの時に制作された三味線材や道具が日本国内に眠っています。
その中でご縁のあった三味線をしっかり寝かせ、メンテナンスし、生命を吹き込み、次の世代に託す。
こうすれば当面は無理なく質の良いモノが提供できる。
これが過去の歴史を踏まえた、現時点の最善策の一つです。
まとめ(2023年時点)
・持続可能性を見据えながら、伝統・性能との両立を図る
・ルール、法律の遵守
・すでに日本に存在している資源を最大限に活用する(前世代から次世代に引き継ぐ)
・この間、伝統・性能と持続可能性が両立できる新たな材料を活用を模索していく
このような基準をもち、三味線を次の世代に託したいと考えています。
小さな三味線工房にできることは限られていますが、
私たちは今後もあらゆる選択肢の中からの最善を選択していきます。